蔵元だより
AIと日本酒
NHK盛岡放送局や河北新報さんで取り上げていただきました、AIを日本酒製造に使えるかどうかの実証実験が南部美人で行われました。AIと日本酒というと真逆の場所のような関係ですが、今回この新しい挑戦を行いました。良く報道では「AIが人の仕事に代わる」とか「AIが人の仕事を奪う」というような報道がされますが、私の考えているAIと日本酒の関係はそうではありません。先日東京都内唯一の酒蔵と言われる「丸真正宗」さんが倒産しました。会社は黒字経営だったのですが、製造技術者の確保が難しくなったという理由もあるようです。これこそが日本酒、特に手造りをしている地酒の恐ろしい未来になります。日本はこれからしばらく人手不足が続くと予想されます。一般社員の確保さえ難しいときに、技術者の確保はとても大きな課題になります。さらに技術者はすぐには一人前になれません。長い経験を積みながら一人前になります。しかし昔も今も職人の世界の技術継承はなかなか難しく、時間がとてもかかります。酒造りの中で最も重要で職人の「目」が必要になるのが「吸水」です。ここを間違うとその先大変な苦労が待っていますし、ここを完ぺきにやるにはかなりの経験とデータが必要になります。データは蓄積できますが、経験はその人しか得る事の出来ないものです。東京大学のAIの専門家の松尾先生は「AIは人の目になれるか」という話をしていたのを思い出し、酒造りで最も重要かつ、最も「目」を使う技術である「吸水」の部分、そこはとても技術敬称が難しいところ、ということで、ここをAIに「助けてもらえないか」という考えで今回この実証実験に取り組みました。
間違えていただくと困るのは「日本酒の製造技術をAIにしてしまう」ではなく、あくまで「AIは職人の助けになるか」という部分です。私の考えでは日本酒の製造をAIに置き換えるのは今は無理です。100年先はわかりませんが、AIがあまり経験の無い職人の助けになれば日本酒製造がとても安定してきます。さらに経験を積んだ職人でも迷う事があり、それを解決してくれる参考書になればさらに技術は伸びますし、酒は安定して高品質になります。
今はまだ難しいかもしれないAIと日本酒製造ですが、そんな時代からデータを蓄積し、ディープラーニングでAIに学ばせて育てていくのも100年先の未来の日本酒業界のために役立つのでは無いかと思いました。もちろん結果はどうなるかわかりません。しかし、未来のために何か出来る事を始めるのも現代を生きる人間の使命なのだと思います。
南部美人の今年の目標は「その先へ」です。誰もまだ挑戦していないAIと日本酒製造という未知の領域を「その先」と考えれば、挑戦する意義があると思います。全ては未来の蔵元のために。実験がどうなるか楽しみにしていてください。なお、この経過発表は2月22日に東京で行われます。私も登壇します。
*なおこのニュースはyahooニュースでトップに掲載されました。