蔵元だより
南部美人inトロント その3
トロント滞在三日目。今日は昼から南部美人を置いていいただいている高級和食レストラン「ki」さんにOZAWA CANADAのSHOTAROさんとお邪魔しました。
kiレストランのソムリエをはじめ、ホールスタッフに日本酒セミナーをすることが目的で、日本酒というのはどのように造られ、そしてその中で南部美人はこういうお酒だ、と説明をさせていただきました。皆さん大変熱心にお話を聞いてくれ、ジョンゴントナーのアメリカでのセミナーに参加したこともある、日本酒に詳しい方もおり、セミナーは大変盛り上がりました。
その後、トロントでなんと日本酒の製造をしている「Ontario Spring Water Company」の醸造所にお邪魔しました。「泉」という銘柄の純米酒を製造しており、うわさには聞いておりましたが、初めてその蔵を見学させていただきました。
社長のKENさん、醸造部長のGregさん、両方ともカナダ人でしたが、驚くほどしっかりとした酒造りをしておりました。
蔵の規模は総米300㎏の仕込みと小さいのですが、今年は20本以上仕込み、私が行った時も、ふねでしぼる前日ということで、ふねの袋を丁寧に洗っていました。
麹室もフィンランドのボイラー業者にお願いして、特別に造ってもらったそうで、蒸米からすべて手造り、さらには炭素濾過なども一切せず、トロント市内では何と生酒も販売しており、味見をしましたが、大変そのレベルの高さに驚きました。
言葉ではなかなか表現できませんが、この不利な状況で、これだけのレベルのお酒を造るとは、本当に驚きました。聞いてみると、水が大変よく、何と仕込み水も濾過をせずに使っているそうで、それにも驚きました。軟水で、大変やわらかい水だそうです。
世界にはまだまだ私の知らない酒造りがあり、そのレベルが驚くほど高いことを知り、今回のトロントで一番の収穫だったかもしれません。自分が蔵を見ながら、私がここで造るなら、こうやる、みたいなイメージがわいてきて、日本の蔵を見せてもらった時とは全く違う感覚で見学をさせていただきました。
トロントをはじめ、カナダはまだまだアルコール規制が大変厳しく、日本酒の流通も、まだまだ日本酒を知るためのツールが少なく、すそ野が狭いのが問題でしたが、このレベルのお酒をトロントの地元の蔵が造り、それを輸入のお酒よりもずっと安く販売できれば、日本酒のすそ野は広がり、そこから育った人が輸入の本物の日本産の地酒に進んでいただけると思いました。そういった意味では、この「泉」はカナダでの日本酒普及のカギになる蔵でもあり、成功してもらわなければいけません。
昨年から酒造りをしているそうですが、昨年見学して味を見た方から言わせると、昨年の比ではないくらい酒はよくなっている、とのことで、日々成長するこの世界でも稀な蔵の挑戦を、日本の本家の酒蔵としてぜひ応援して、一緒にカナダでの日本酒普及を進めていきたいと思います。