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日本最古の酒の自動販売機 その1

日本最古の「飲用自動販売機」

最近は、日本中だいたいどこでも外を歩いていると、様々な自動販売機を目にします。
特に、清涼飲料水や酒類、たばこなどは皆さんも一度はお使いになったことがあると思いますが、どの販売機も缶やペットボトルや、パッケージに入って出てくるものがほとんどですよね?

今回、ご紹介する日本最古の酒の自動販売機は、入れ物に入った商品が出てくるのでは無く、容器を置いてお金をいれると、水道のような蛇口からお酒が出てくるというものなのです。

日本最古の「飲用自動販売機」の画像

先ほど、日本最古の酒の自動販売機と書きましたが、正確には、現存する日本最古の「飲用自動販売機」であり、非常に貴重な技術史資料で、国立科学博物館による「重要科学技術史資料(未来技術遺産)」に認定されています。

この自動販売機は、五銭白銅貨という硬貨専用であり、五銭白銅貨は1889年から1897年に発行されていたことから、製作は、1889~1910年頃とされています。

1889年といえば、明治22年。
この年には、大日本帝国憲法が発布されたり、東海道本線が全通したりと、大きく日本が変わりゆく時代につくられていたようです。
残念ながら、制作元については、情報が少なく、「興醸舍販賣元」と側面に手書きされているだけだったのです。
のちに、とあることがきっかけで制作したであろう会社のことがわかるのですが、それはあとでご紹介することにします。

市日と自動販売機

自動販売機と南部美人の関係は?といえば、実はこの日本最古の「飲用自動販売機」、もともと南部美人にあったものなのです。

今でも、南部美人の酒蔵がある岩手県の二戸では「9」のつく日に朝から市(いち)が開かれていますが、昔も今と変わらず市日(市が開催される日)というものがありました。
当時、お酒は高価なもので、販売の主流は量り売りだったそうです。
その頃の南部美人は、この市日に、蔵の前の店頭で「盛っ切り」でお酒を売っていたそうです。

「盛っ切り」の画像

「盛っ切り」とは、コップや枡(ます)に盛り切り1杯ずつ売る形で、今でも居酒屋などで日本酒をたのむと枡の中にコップを入れたり、皿の上にコップを置いて、少しこぼすように注ぐ日本酒独特のつぎ方です。

この市日で、お酒を買う人が当時は多く、かなり混雑したそうです。
そのため、南部美人では、3代目の蔵元のお姉さんが東京で見つけた自動販売機を購入し設置したらしいということです。
当初は、物珍しさもあって、結構利用されたようですが、だんだんと利用されなくなったのだそうです。

日本最古の「飲用自動販売機」使用イメージ

自動販売機の欠点は、なんと言っても「盛っ切り」ができないというところにあったようです。
この機械はゼンマイ仕掛けだったのですが、機械としてなかなか優秀で、きっちり1合で止まるそうですが、日本酒のつぎ方と言う点では、「盛っ切り」でこぼれないので損している気分になるのでだんだん敬遠されたようです。

いつの頃からか、この自動販売機は、市日の南部美人の店先からなくなってしまったということです。

酒の自動販売機再び

その後、長い年月、酒の自動販売機のことは、みんなの記憶から忘れ去られていました。
この自動販売機が再び見つかったのは、ふとしたことがきっかけだったそうです。
その時の記憶を、副社長(久慈邦子)に紐解いてもらいました。

それは、現在の五代目蔵元の社長(久慈浩介)がまだ中学生の頃。
社長の使っていた部屋の簡単な改装のため、社長の母でもある副社長(久慈邦子)が、押し入れを整理していたときのことです。
押し入れの奥から、なにやら見たことの無い大きめの箱のようなものがでてきたのです。
これが、日本最古の「飲用自動販売機」が数十年の時を経て蘇った瞬間です。
その当時は、自動販売機の外装は、丁寧な漆塗りで、それはそれは、きれいなものだったそうです。
その大きな箱がなにかわからなかった副社長(久慈邦子)は、故三代目蔵元(久慈秀雄)に聞いたということですが、「そう言えば昔使ってたようだな。捨てていいぞ」と言われたそうです。
ただ、あまりにその外装がみごとであったので捨てるのはやめ、とっておいたそうですが、だんだんと置き場所は追いやられ、軒下に放置されることとなります。

酒の自動販売機を見つけた時のことを話す副社長「久慈邦子」さんの写真

そして再度この自動販売機が注目されるのは、そこからまた数年後。
現在も、南部美人の蔵の前には、宿泊ホテルがあるのですが、そのお客様が軒下に置いてある自動販売機を見て、「30万円で譲って欲しい」といわれたそうなのですが、そのまま放置していたものをまさか売ることもできないので、丁重にお断りしたそうです。
ただ、その時に、はじめてこの箱には歴史的価値があるということを知らされて驚いたといいます。

その後、この自動販売機は二戸市歴史民俗資料館に寄贈することになりました、それがいつしか国立科学博物館に漏れ聞こえることとなり、調査がされ、2009年に、現存する日本最古の「飲用自動販売機」であると認定されたのです。

また、この自動販売機は有名なテレビの鑑定番組にも出品され、その時の鑑定額が30万円だったそうです。
そうです、あの欲しいと申し出た方の金額とぴったり。もしかすると、かなりの目利きの方だったのでしょうか・・・。
今思えば、あの目利きの宿泊客の方がいなければ、もし南部美人の目の前のホテルではなく他のホテルに宿泊していたら、ずっと埋もれて消えてしまっていたかと思うと、このような歴史的遺産が見つかるのも、人の縁からなのだなとしみじみ感じてしまいます。


次回は、実際に二戸市歴史民俗資料館にお邪魔して、実際の自動販売機を間近でみせていただき、館長にもお話を伺いましたので、その辺のお話を少し。

つづく

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