蔵元だより
日本最古の酒の自動販売機 その2
日本最古の酒の自動販売機の実物を見るために訪れたのは、二戸市歴史民俗資料館。
館長の菅原さんにいろいろとお話を伺いました。
鑑定番組から広がる縁
この自動販売機は、国立科学博物館による「重要科学技術史資料(未来技術遺産)」に認定されていますが、その経緯について菅原館長は話してくださいました。
「もともと、こちらからお願いしたわけではないのです。噂を聞いたらしく問い合わせをいただきました。」
その問い合わせのきっかけが、TVの鑑定番組への出品でした。
ここから、国立科学博物館の方でいろいろと調査が行われて、現存する最古の自動販売機と認定されるまでに至ったそうです。
この鑑定番組への出品による影響がもう一つありました。この自販機を製造した会社が判明したのです。
実際に本体には「興醸舍販賣元」と記述されており、当時、東京にあった酒造に必要な資材の販売などをしていた会社だったことはわかっていましたが、戦災によりその行方がつかめずにいたそうです。
ところが、この鑑定番組をみて、その会社がコンタクトをとってきてくれたそうです。
この会社が、現在、長野県の佐久市にある「株式会社 興醸社」です。
戦時中、戦災で焼け出され、長野県で新たなスタートを切ったそうなのですが、当時の資料などすべて消失してしまったらしく、昔の手がかりを探していたそうです。
残念ながら、この自動販売機が何台くらいつくられたのかなど、資料はなかったので、新しい事実はわかりませんでしたが、この自動販売機のお陰で新しい縁ができたと、菅原館長はうれしそうに語ってくださいました。
自動販売機の仕組み
自動販売機は資料館内ではガラスのケースに収められています。
実際の写真も撮りたかったので、恐る恐る「直接見ても良いですか?」とお聞きしたところ、こころよく承諾していただきました。
大きめで動かすことが難しかったため、納めてあるガラスケースに入り間近で見てきました。
本体の塗装ははげていましたが、注ぎ口などのサインパーツ部分にはホーローのパーツが取り付けられており、そこには筆文字で「酒出口」「ゆすぎ水出口」などと書かれており、これが漆塗りだったことを考えると、なかなか高級な工芸品のようだったであろうということは、安易に想像できました。
中は至ってシンプルな、箱になっているだけで、現在は酒を注ぐカラクリ部分はなくなっていました。
そこで、菅原館長にこの販売機の仕組みを聞いてみました。
元々は、カラクリ人形などで使われているゼンマイ技術が使われていたようです。
原理は至って簡単で、酒が送られるチューブがゴム製で通常は箱に取り付けられたクリップのようなもので閉じられています。
そこに硬貨を投入すると仕組みが動き、クリップの柄の部分が押されてクリップが開き、酒が抽出口へ送られます。
この押している時間がカラクリで調節されて分量がきまるようで、時間がたつと押すことをやめるので、クリップでチューブがまた閉じられ酒の送出がとまるというものです。
現在は、これらのパーツが老朽化して使えなくなってしまったそうで、実際にその動きを見たかったなあとつくづく思いました。
まったく、電力を使用しない構造でもあるので、これは災害時でも利用できる仕組みになるのでは?と考えるのは考えすぎでしょうか。
待ち望まれる復刻
とにもかくにも、聞けば聞くほど、楽しくなるこの日本最古の酒の自動販売機。
一時期、レプリカ(復刻品)の作成する話があがったようですが、様々な事情で実現しなかったそうです。
しかし、こういう電力を使わない昔からの技術は、これからも残して欲しいと思いますし、実際に目にすることができれば、ここ二戸の新しい魅力になるのではないでしょうか。
カラクリ自販機の復刻、心から待ち望んでいます。